お知らせ
アスファルトルーフィング工業会とトーチ工法ルーフィング工業会は、一般社団法人日本防水材料協会(JWMA)の改称・改組に伴い
平成30年6月15日をもってその事業活動の場を、JWMAアスファルト防水部会に移すことになりました。
防水工事用アスファルトの技術資料
-平成29年度改訂版-
アスファルトは原油を製油所で蒸留精製を行い製造されます。最初に常圧蒸留装置で約350°Cまで加熱され沸点の差を利用して、石油ガス留分、ガソリン・ナフサ留分、灯油留分、軽油留分などが分離されます。常圧蒸留装置の底に残こった油を原料として、さらに減圧蒸留装置で内部を大気圧の約1/20に減圧し加熱します。この段階で沸点が約500°Cまでの物質が取り除かれ、最後に装置の底に残ったものがアスファルトです。
アスファルトを構成している元素のほとんどは炭素(C)と水素(H)で、主な成分はパラフィン、ナフテン、芳香族炭化水素です。この他に数%程度の酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)を含む有機化合物と、さらに1%以下の鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)等の有機金属化合物とで構成されています。
防水工事用アスファルトはさらにアスファルトを200°C~300°Cの高温で空気を吹き込み酸化や脱水素重合などの化学反応をさせることで製造されます。
「防水工事用アスファルト」は取り扱い時の状態によって危険有害性が大きく異なります。
「防水工事用アスファルト」の安全データシート(SDS)によると、固体状態では急性毒性、眼刺激性、皮膚感作性や発がん性など全ての項目で、区分外もしくは区分できないとされています。しかしながら、アスファルト防水工事において「防水工事用アスファルト」は180°C~260°C程度に加熱・溶融して使用します。その際、化合物の揮発や分解反応が起こり、多種のガス状物質(アスファルト蒸気)が発生します。
そのため、SDSでは加熱溶融状態の「防水工事用アスファルト」の蒸気に長時間かつ長期にわたり接触する防水工事作業者に対しては、同じくSDSで以下の危険有害性があるとされています。
【GHS分類】
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性 | 区分2 |
生殖細胞変異原性 | 区分2 |
発がん性 | 区分2 |
特定標的臓器毒性、単回ばく露 | 区分3 |
特定標的臓器毒性、反復ばく露 | 区分1 |
「アスファルトの蒸気(ヒューム)」に接触した場合には、呼吸することで空気と一緒に肺に侵入し、また衣服などで覆われていない皮膚(手、顔、首など)に付着する恐れがあり、短期的には次のような健康への影響が引き起こされる恐れがあります。また、眼や上部気道(鼻や喉など)に刺激(痛み)を感じることがあります。しかし、この症状が起きたとしても一過性のもので、通常は激しいものではありません。また、他の報告では、頭痛、吐き気、食欲減退、疲労、皮膚の炎症、咳、喘息、息切れなど急性(突発的)な症状がみられることもあるとされています。(詳細はARK会員各社が提供するSDSをご参照ください)
なお「防水工事用アスファルト蒸気」の成分について、IARCは以下のような結果を公表しています。*1「アスファルト蒸気」中のPAHsの濃度を測定した結果についても検証しています。それによると「加熱したアスファルトを用いた防水工事」、「道路舗装用アスファルト混合物製造」および「道路舗装工事」の現場において、いずれの場合にも、ごく微量(約1㎍/㎥以下)のPAHsが検出される場合があることを報告しています。このことから、「アスファルト蒸気」中には微量ながら、「発がん性がある物質:ベンゾ(a)ピレン」が含まれる場合がある。
[PAHs: Polycyclic Aromatic Hydrocarbons 多環芳香族炭化水素。ARK 注]
アスファルトは加熱溶融時に硫化水素や一酸化炭素を発生する場合があります。そこで、当工業会とアスファルト製造会社が共同で実際の防水工事現場におけるこれらの有害物質の発生状況を忠実に再現し作業環境測定士の指導の下、検知管及びパッシブ・ドジチューブを用いて発生するガスを採取しその結果をまとめました。
*パッシブ・ドジチューブとは長時間の平均ガス濃度を測定するもので、ガスの自然拡散を利用し、時間あたりの平均ガス濃度を測定することができます。測定範囲は硫化水素0.2ppm-200ppm、一酸化炭素1.04ppm-2,000ppmです。(ARK注)
<測定結果>
1.硫化水素
作業者 | アスファルト溶融・運搬作業 | 溶融アスファルト散布作業 | ルーフィングの貼付作業 |
---|---|---|---|
検知管平均値 | 0.05ppm未満 | 0.05ppm | 0.05ppm |
パッシブ・ドジチューブ | 測定下限未満 | 測定下限未満 | 測定下限未満 |
管理濃度1ppmであり全ての測定点における測定値は管理濃度以下であった。
2.一酸化炭素
作業者 | アスファルト溶融・運搬作業 | 溶融アスファルト散布作業 | ルーフィングの貼付作業 |
---|---|---|---|
検知管平均値 | 1ppm未満 | 1ppm未満 | 1ppm未満 |
パッシブ・ドジチューブ | 測定下限未満 | 測定下限未満 | 測定下限未満 |
管理濃度が定められていないため測定値の善し悪しを評価することはできないが、測定結果は極めて小さな数値であった。
アスファルト溶解釜周辺 |
アスファルト運搬作業 |
溶融アスファルトの撒布&ルーフィングの貼付作業 |
硫化水素はSDS(安全データシート)に記載される有害性情報の中で、作業環境測定基準(昭和51年4月22日労働省告示第46号)による管理濃度として1ppm以下とされています。高濃度の硫化水素を吸入すると、頭痛、めまい、嘔吐、下痢等の症状を起こし、それが400ppm∼700ppmでは、30分∼1時間の暴露で急性死または後死が考えられ、700ppm以上の硫化水素の吸入は、意識喪失や死につながる呼吸器系統の麻痺を起こすとされています。
また、一酸化炭素は、特に管理濃度が定められていませんが中毒の目安として300ppm以下なら影響は少なく、600ppm以下では軽度の作用があり、900ppm以下では中・高度の影響があります。1,000ppm以上になると危篤症状が現れ、1,500ppm以上では生命の危険があるとされています。(ARK注)
ARKでは、従来から防水工事用アスファルトを含むブローンアスファルトおよびその排出物と発がん性との関連性について調査・検討を行いました。今回の国際がん研究機構IARCの勧告*8を受けて、ARK加盟各社の定年退職者を含む従業員の健康調査を行い、その結果を以下に示しました。
1.ARK加盟各社従業員(定年退職者を含む)の健康調査で回答のあった会社を表-1に示しました。
表-1 健康調査回答会社
回答会社 | ガムスター(株) | 静岡瀝青工業(株) | 昭石化工(株) | 田島応用化工(株) |
田島ルーフィング(株) | 七王工業(株) | 日新工業(株) | 三島工業(株) |
2.表-2に回答者数の内訳を示しました。
在職者(平成24年1月1日現在)数は、592名。定年退職者(退職後の状況が追跡可能)数233名。合計825名。内、職務上アスファルトの影響が強くあるものと推定される製造部門に所属する人数は約半数でした。
表-2 健康調査回答者数
回答者数 | 合計 | 職種 | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
製造部門 | 製造管理・技術職 | 事務・営業職 | 不明 | |||
在職者 | 592名 | 291名 | 124名 | 196名 | - | 18名が職種移動で重複 |
定年退職者 | 233名 | 108名 | 54名 | 50名(1名詳細不明) | 23名 | 23名が職種不明 2名が職種移動で重複 |
合計 | 825名 | 399名 | 178名 | 246名 | 23名 | 23名が職種不明 20名が職種移動で重複 |
3.在職者(592名)の健康状況を表-3に示しました。
在職者のがんを含む既往症の調査結果は個人情報保護法により、不明の者が全体の1割超でした。在職中にがんで死亡した人数は4名。製造部門所属者と製造部門以外の所属者で、顕著な差は認められませんでした。また、在職中死亡者の死因においては、アスファルトの影響があると推定される、皮膚がんや肺がんは認められませんでした。
表-3 在職者健康調査結果
合計 | 職種 | 備考 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
製造部門 | 製造管理・技術職 | 事務・営業職 | 不明 | ||||
在職者 | 592名 | 291名 | 124名 | 196名 | - | 18名が職種移動で重複 | |
平均年齢 | 41.3歳 | 40.0歳 | 44.1歳 | 42.2歳 | - | 2名が職種移動で重複 | |
既往症 (がん) |
なし | 523名 | 248名 | 118名 | 174名 | - | - |
不明 | 65名 | 41名 | 4名 | 20名 | - | - | |
在職中死亡者 | 4名 | 2名 | 2名 | 1名 | - | 1名が職種移動で重複 | |
死亡時年齢 死因(がん) |
50歳 大腸がん |
○ | ○ | - | - | - | |
55歳 白血病 |
- | ○ | - | - | |||
51歳 膀胱がん |
○ | - | - | - | |||
57歳 胃がん |
- | - | ○ | - |
4.定年退職者(233名)の健康状況を表-4に示しました。
定年退職者の存命率は全体で67%、在職時に製造部門に所属していた者の存命率は65%で、在職中の職種の違いによる存命率は顕著な差は認められませんでした。また、在職時に製造部門に所属していた者の健在者の平均年齢及び死亡時の平均年齢は他業務に従事していた者に比べて、顕著な差とは認められませんでした。
定年退職者の内、死亡した人数は76名。製造部門所属者(39名)と不明を含む製造部門以外の所属者(37名)。内、がんが死因となった者は製造部門所属者(5名)と不明を含む製造部門以外の所属者(7名)で、顕著な差は認められませんでした。
表-4 定年退職者健康調査結果
合計 | 職種 | 備考 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
製造部門 | 製造管理・技術職 | 事務・営業職 | 不明 | ||||
定年退職者 | 233名 | 108名 | 54名 | 49名 (1名詳細不明) |
23名 | 2名が職種移動で重複 | |
平均年齢 (死亡者含む) |
72.8歳 | 72.0歳 | 73.4歳 | 72.2歳 | - | - | |
存命者数 | 157名 | 69名 | 48名 | 41名 | - | - | |
平均年齢 (死亡者除く) |
72.7歳 | 72.1歳 | 73.4歳 | 72.2歳 | - | - | |
死亡者数 | 76名 | 39名 | 6名 | 8名 | 23名 | 死亡時年齢不明37名 | |
死亡時 年齢平均 |
73.2歳 | 71.8歳 | - | - | 74.1歳 | 死亡時年齢不明37名 | |
死因 | がん | 胃がん | - | - | - | 3名 | - |
肺がん | 3名 | - | - | 1名 | |||
肝臓がん | 1名 | - | - | 1名 | |||
大腸がん | 1名 | - | - | 1名 | |||
膵臓がん | - | - | - | 1名 | |||
脳梗塞 | - | - | - | 3名 | |||
その他 | 6名 | - | - | 10名 | |||
不明 | 28名 | 6名 | 8名 | 3名 |
アスファルト防水熱工法は国内において百年を超える最も長い歴史を持ち現在でも最も信頼されている工法です。しかしながら防水工事の際、アスファルトを180~260℃程度に加熱するため、そこから発生する蒸気、および高温であることに起因する取り扱い上の注意が必要になります。
建築現場においても近年の環境意識の高まりを背景に、より安全に取り扱うための技術革新が進んでいます。アスファルト防水熱工法においてもいろいろな方面で新しい材料・技術が導入されています。
1)臭・煙の発生を抑制する
溶融アスファルトを使わない工法の導入(常温粘着工法&トーチ工法)
2)防水材料の開発:防水工事用類アスファルトの改良
a.低温・低臭アスファルトの導入(溶融時の臭・煙の発生量削減)
b.常温施工が可能なアスファルトの導入(溶融時の臭・煙がない)
3)防水システムの改良
a.現場でのアスファルト溶融工程の廃止
⇒保温コンテナーの導入
以上のような取り組みの結果、現場施工で使用する溶融アスファルト量の削減、発生する臭・煙を削減し作業環境の改善(環境対応)を図っています。
<具体的な取り組み例の紹介>
改質アスファルト トーチ工法 |
1)臭・煙の発生を抑制する溶融アスファルトを使わない工法-1 |
---|---|
改質アスファルト 常温粘着工法 |
溶融アスファルトを使わない工法-2 |
従来工法 |
2)防水工事用アスファルトの改良a.低温・低臭アスファルトの導入(溶融時の臭・煙の発生量削減) |
改良工法 |
|
①無溶剤一液型改質アスファルト |
b.常温施工が可能なアスファルトの導入 |
②2液反応型改質アスファルト |
|
3)防水システムの改良
|
現在、様々な安全性に関する情報が発表されていますが、最も関心の高いものが発がん性です。そこで欧米を中心に最新情報を取り上げてみました。
2011年10月の再評価の結果、「防水工事に用いられるブローンアスファルトに関してアスファルトおよびアスファルト蒸気の職業暴露」は、ヒトへの発がん性を示すいくつかの証拠があるとして、「グループ2A(人に対しておそらく発がん性ある)」分類されました。
IARCは、主に、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、5段階に分類しています。IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「根拠の強さ」を示すものです。物質の暴露量に基づくリスクの大きさを示すものではありません。
表3-1-1 IARCの発がん性評価
動物実験における証拠 | ||||
---|---|---|---|---|
人における証拠 | 充分(sufficient) | 限定的(limited) | 不十分(inadequate) | 発がん性なし |
充分(sufficient) | グループ1 | |||
限定的(limited) | グループ2A | グループ2B(例外的に2A) | ||
不十分(inadequate) | グループ2B | グループ3 | ||
発がん性なし | グループ3 | グループ4 | ||
グループ | 評価 | |||
1 | 人に対して発がん性が有る | |||
2A | 人に対して恐らく発がん性が有る | |||
2B | 人に対して発がん性が有るかもしれない | |||
3 | 人に対する発がん性については分類できない | |||
4 | 人に対して恐らく発がん性がない |
ところで、がんを発生させる危険性(ハザード)を検証するには「動物実験による検証」と「疫学的な検証」の双方の研究結果を総合的に判断して決定されます。
IARCは、ストレートアスファルト、およびブローンアスファルトの動物実験の検証結果を、以下のようにまとめています*1。
1.「アスファルト蒸気」を「一定濃度で吸入」させた動物実験では、ストレートアスファルト、およびブローンアスファルトを用いた場合ともに「発がんリスク」が高まるという結果は得られなかった。(がん発生が減少したとのデータが掲載されています。筆者注)。[原文のまま]
2.「アスファルト蒸気」を採取し、溶剤で溶解し、マウスの皮膚に塗った場合には、ストレートアスファルトを用いた実験では「発がんリスク」が高まるという結果は得られなかったが、ブローンアスファルトを用いた実験では皮膚がんの発生が認められる幾つかの結果があった。
なおこれらの検討では、溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン等を用い、皮膚への塗布は1~3回/週の割合で、1~2年間にわたり行ったと報告している。
(IARCの評価は「対象物質が発がんの危険性を有するか否か」を判定することを目的としています。このためIARCではブローンアスファルト蒸気のマウス皮膚への直接的な塗布量を、実際の作業現場では発生しない過剰な濃度とした検討結果をもとに、潜在的な発がんの危険性を明らかにしようとしています。なお環境省のPRTR法に関する解説*2では「発がん性などの有害性は、動物実験で得られた結果を人に当てはめるため、不確実性を伴う」としています。筆者注。[原文のまま]
IARCは、作業者の「発がん性」に関する検証結果を、以下のようにまとめています*1。
「防水工事」に携わる作業者の「発がんリスク」の検証において、「発がんリスク」が高くなったという限定的なデータ(限られた数の証拠)があったが、防水工事の際に触れる可能性のある古い防水材料に含まれる「コール・タール」や「アスベスト」、及び「作業者の喫煙」といった「発がん性がある物質」の影響を排除できなかった。
IARCの発がん性評価結果
IARCは、作業者の「発がん性」に関する検証結果を、以下のようにまとめています*6
表3-1-2 IARCによる発がん性評価の例(2016年12月現在)(瀬尾、2017)
分類 | 分類の基準(注) | 対象品目の例 |
---|---|---|
1 | 発がん性がある(119種) The agent is carcinogenic to humans
|
アスベスト、ベンゼン、ホルムアルデヒド、コールタ一ルピッチ、Cd、Be、塩ビ、X線、γ線、α線、β線、中性子線、ヨウ素131、太陽光、UV-A,B,C、加工肉、太陽汚染、アルコール飲料、タバコ、受動喫煙、すすの暴露、塩をふった魚、結晶性シリカ…など |
2A | おそらく発がん性がある(81種) The agent is probably carcinogenic to humans
|
防水工事におけるブローンアスファルトによるアスファルトおよびアスファルト蒸気の職業暴露、防水工事用アス作業者のヒューム暴露、ディーゼル排ガス、高温の揚げ物(フライ)の煙、マテ茶、アクリルアミド、ベンズ(a)ピレン、ベンズ(a)アントラセン、鉛化合物、赤身肉・・・など |
2B | 発がん性があるかもしれない(292種) The agent is possibly carcinogenic to humans
|
道路舗装におけるストレートアスファルトによるアスファルトおよびアスファルト蒸気の職業暴露、コーヒー、ドライクリーニング作業者の暴露、ピクルス(食品)、アセトアルデヒド、ベンゾ(b)フルオラセン、スチレン、ナフタレン、ガソリン、鉛、ニッケル、クロロホルム、カーボンブラック、二酸化チタン、高周波電磁波、低周波磁場、など |
3 | 発がん性を分類できない(505種) The agent is not classifiable as to its carcinogenicity in to humans
|
トルエン、キシレン、原油、軽油、ジェット燃料、フルフラール ピリジン、アントラセン、ベンゾ(ghi)フルオラセン (多環芳香族の一種)、水銀、セレン二酸化チタン、アラルダイト(エポキシ)、ポリ塩化ビニル、紅茶、カフェイン、コレステロール、静止磁場、低周波電場、など |
4 | 恐らく発がん性はない(1種) The agent is probably not carcinogenic to humans
|
カプロラクタム |
注)分類及びその基準は、原文は英語で記載されており、ここでは総務省により訳出された用語を使用している
NRCA(全米屋根工事業協会)はアメリカを代表する屋根防水工事業者の団体で、防水材料製造業者、原材料の製造業者などが協賛しています。
NRCAはIARCの発がん性分類の公表結果に対して次のような見解を公表しています。 *3
1980年代に NTOSHが行った実験室で作られた「アスファルト蒸気」をマウスの皮膚に塗った実験では腫瘍が発生した。しかしその後の研究によって、実験室で作られた「アスファルト蒸気」と実験と現場で採取した「アスファルト蒸気」とでは違いがあるごとが分かった。
最近ドイツで行われた実験において、現場で採取したものと同じ成分の「アスファルト蒸気」をラットに暴露させたが発がん性が確認できなかった。
[引用者注:NTOSH:National Institute of Occupational Safety and Health(国立労働安全衛生研究所)]
アスファルトは、長年にわたって広く使用されている。そのためアスファルト防水技能員についての数多くの調査・研究データが存在する。これらの調査・研究は 科学的で広範囲に渡り、その結果によればアスファルト防水技能員には比較的多くの肺がんの患者が見つかった。しかし、これらの報告において加熱したアスファルトから発生するフューム(アスファルト蒸気)と肺がんとの囚果関係を明確に特定することはできなかった。また、最近の科学的な分析では、他の要因が肺がんの発生率を増加させることを明らかにした。そこでは以前には広く使われていたコール・タール、アスベストや喫煙などが、肺がんの発生率を上昇させる要因となるとされる。2002年にジョージタウン大学が行ったオーウェンスコーニング社のアスファルト製品とアスファルト防水材の製造工場で働く労働者の調査では、肺がんに罹るリスクと「アスファルトの煙」の曝露との間に、関係は何も見いだせなかった。
2016年2月にIARCの発表を受け協会の見解として、熱アスファルト防水工事の現場で発生する「アスファルト蒸気」への暴露によって引き起こされる潜在的な発がん性に関する定量的リスク解析(QRA)の報告が行われました。そこで、NRCAから委託された研究者は膨大な動物実験の結果や疫学的な調査研究資料を基に、様々な物質に対するQRA(量的なリスクアセスメント)を算出しているので以下にご紹介します。*5
なおリスク(危険度)はハザードの規模(影饗の大きさ)×ハザードの発生頻度で定義され、事故の発生確率や事故の影饗の大きさ、あるいは範囲 若しくはリスクそのものを定量的に評価するために用いられます。
職業上及び日々の生活で死亡するリスク(T.Shanahan,2016)[ARK 訳]
死亡原因 | リスク (1/百万) |
リスク (%換算) [ARK 換算] |
---|---|---|
職業の分類 (従事した年数:45年) | ||
農業 | 9,765 | 0.9765% |
建設業 | 4,095 | 0.4095% |
製造業 | 810 | 0.0810% |
レジャー・接客業 | 450 | 0.0450% |
金融・サービス業 | 225 | 0.0225% |
日々の生活における危険度(リスク) (78年間) | ||
大気汚染(米国平均)が原因でがんになる | 19,700 | 1.9700% |
窒息 | 1,181 | 0.1181% |
室内汚染(南カリフォルニア) が原因でがんになる | 607 | 0.0607% |
隕石との衝突 | 32 | 0.0032% |
落雷 | 6 | 0.0006% |
1 回の胸部 X 線照射 | 4 | 0.0004% |
8オンスの炭火焼きステーキを年 2回食べた場合 | 1 | 0.0001% |
45年間、時間「アスファルト蒸気」に曝露された際の 一番高く見積もった肺がんになるリスク*1 |
8 | 0.0008% |
この場合「アスファルト蒸気」のTLV(許容限界値)は 0.5mg/㎥(大気中)とする [ARK 注]
上の表からは 「アスファルト蒸気」の暴露された際の発がんリスクは、人が落雷で死ぬ確率とほぼ同等で、胸部X線照射の2倍、隕石との衝突の 1/4と見積もられます
アスファルト防水工事の作業安全のため、今後、あらかじめリスクアセスメントを実施することが求められます。その背最は以下の通りです*6 。なおここで安衛法は、労働安全衛生法をさします。また以下の情報は2017年7月時点のものですので、今後変更される可能性があります
2016年6月の安衛法改正により作業環境における「危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)」が義務化されました。アスファルトは安衛法施行令別表9に記載されている「鉱油」に分類されるため、SDSによる通知およびリスクアセスメントの実施が必須となります。
また、2017年3月現在、厚生労働省において、安衛法施行令別表第9に「アスファルト」を追加すべく検討がなされており、正式の決定した際には作業環境におけるアスファルトの暴露限界等も併せて公表されることが予想される。
今後、別表第9に「アスファルト」が追加された場合には、SDS内容およびリスクアセスメント実施方法に変更が必要となる可能性がある。
ここでご紹介したようにアスファルト防水工事の際に発生するフューム、ガスによるがん発生の可能性については、疫学的な研究と動物実験による実証とが進行中です。しかし、発がん性に関しては様々な要因が複雑に絡み合っているため、防水工事用アスファルトが原因であるとの決定的な証拠はまだ見つかっていません。
アスファルト防水積層工法は多くの皆様から信頼を得る優れた防水工法の一つです。今後サステナブル社会(持続可能な社会)を目指していく上で、長い耐用年数が期待できることから重要な防水工法の一つであると考 えています。
ARKは、アスファルト防水を取り巻くこのような現実をよく見極め、常に最新の情報を皆様に開示するよう努めてまいります
*1 | 瀬尾、MSDSからSDSへ ~アスファルトの安全データシート改定と安全性に関する表示内容について~ Asphalt pp.53 Vol.56 No.229 (2013) |
*2 | http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/prtr/index.html |
*3 | http://www.nrca.net/consumer/arma_asphalt.pdf |
*4 | http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html |
*5 | Thomas R. Shanahan, Scientific findings support the safety of asphalt Fumes, Professional Roofing Vol.46 Issue 2 2016 |
*6 | 瀬尾、アスファルトの特徴、製造方法、および安全に取り扱うための通知、表示について、関西道路研究会会報、pp.24 41号(2017) |
*7 | http://www.env.go.jp/chemi/prtr/about/yougo2.html |
ガムスター株式会社 | http://www.gumstar.co.jp/ | |
静岡瀝青工業株式会社 | http://www.shizureki.co.jp | |
昭石化工株式会社 | http://www.shosekikako.co.jp | |
常裕パルプ工業株式会社 | http://joyu.co.jp/ | |
田島ルーフィング株式会社 | https://www.tajima.jp/ | |
東和工業株式会社 | http://www.towaltd.co.jp/ | |
七王工業株式会社 | http://www.nanao-net.co.jp/ | |
日新工業株式会社 | http://www.nisshinkogyo.co.jp/ | |
三島工業株式会社 | http://www.mishima-roofing.com/index.html | |
(一社)日本アスファルト協会 http://www.askyo.jp | ||
間い合わせ先 | アスファルトルーフィング工業会 | http://www.ark-j.org |
昭石シェル石油株式会社 | http://www.showa-shell.co.jp/ |